楽しい体育あそび指導法
自分からすすんで遊び、工夫する子に育てるには
子どもの自発的な活動とは・・・。

「子どもの初期の発達は、すべてがほとんど同時に行われる。子どもは話すこと、食べること、歩くことをほとんど同じ時期に学ぶ。 「これが正確にいって人生の最初の時期だ」(ルソー著『エミール』)と、言われているように、発達のための手掛かりはいろいろなところにあることを頭に入れておくことが大事です。

しかし、子どものやりたいようにさせておけばよいのではないのです。「子どもを不幸にする一番確実な方法はなにか、(中略)それはいつでもなんでも手にいれられるようにしてやることだ。」「子どもを悪くするには、子どもの好きにさせておけばよい。いやなことはさせないことである」(同前)からです。

子どもたちが主体的に自由に遊ぶことはとても大事なことです。子どものいやがることを無理強いしたり、訓練的に同じことばかりさせることはよいことではありません。保育者はいつも悩みます。自由遊びでは子どもたちは自分の経験した遊びしかやらないし、また自分の好きな遊びばかりするからです。不得手なことは「いや」と言って逃げていきます。

好きになるチャンスの芽をつんでいないか。

「この子は○○が不得手だからできないのです。でも□□はできます。この子の個性なので、できることを伸ばしたいのです」

なるほどと思います。しかし、個性は幼い時にもうできあがっているのでしょうか。不得手なことは幼い時に決まってしまうのでしょうか。そうではなく、得手・不得手というのはいろいろな経験をして、ある程度の年月を経てはじめてわかるものです。また、不得意なことでも効果的な習練や、何かのきっかけで克服されるものです。個性はこのような過程を経て作られていくものです。

子どもの好きなようにさせておくことは、一見、主体性があるように見えますが、そこでは幅広い経験はできません。押しつけでなく、管理的でなく、形にとらわれた技能訓練でない、子どもの自発性を生かした幅広い領域の活動を十分に経験させることが必要です。

子どもの動きをよくみる。

子どもを観察していると、じーっとして何もしない子、ウロウロしている子、指吸いに夢中な子、砂を集めてだんご作りに一生懸命の子、砂場で山や谷を作っている子、鉄棒で足駆け回りをしている子、ジャングルジムやのぼり棒やブランコに乗っている子、テレビのキャラクターを模倣して走り回っている子、などさまざまな姿が見られます。このような時間は大切です。しかし、それだけでよいのでしょうか。

それは、子どもが自主的に遊んではいるけれども、極めて狭い範囲の活動であり、しかも子どもの知っていること、自分のしたいことだけをしているに過ぎません。保育者が遊びの仕掛け人になって、遊びの場や枠を拡げてあげることは欠かせないことです。子どもたちに「あれ?何だろう」「もしろそう」と心はずむ機会をたっぷり経験させてあげたいものです。

保育者の関わり。
遊びの場や枠を拡げるには、どうすればよいのでしょうか。
それには次の4つの事柄が必要です。
  • 1.観る=観るとは――クラスの子どもの概況と個々の子どもの状態を知る。
  • 2.見通しをたてる=見通しをたてるとは――遊びの発展と子どもの変容を予想する。
  • 3.段階化する=段階化するとは
    ――すぐできる遊びから徐々にむずかしさを加えた段階を考える。
  • 4.具体的に計画する=具体的に計画するとは
    ――実際の遊びの場における望ましい子どもの姿を予想して図と文章にし、その状態を作りだすための保育者の手だても文章化する。

そして、このように子どもの最も望ましい活動を引き出すための保育者の手だてを図や文章化したものが指導計画・指導案なのです。

楽しい体育あそび指導法
指導案の実際
記述するとは。

指導計画や指導案には定まった形式はありません。立案しやすく、使いやすく、他人にもよく理解でき、保育後の自己評価がしやすいものが理想的です。かつ、それは以後の保育内容の改善に役立つはずです。

では、指導案作りについて順を追って説明していきましょう。

子どもたちに最も望ましい活動を経験させるためには、計画的な指導が必要です。計画には、何日もかけての計画やその日で終わる計画とがあります。

年間計画、月計画、週計画、単元計画も必要ですが、本書では、その日に終わる遊びの指導計画(指導案)に限定して記述します。

立案に必要な事柄
①子どもの実態
年齢、男女、人数、クラスの人間関係、遊びの経験、個々の子どもの特徴、
特に留意すべき子
②経験させたい遊び
遊びの名前と領域、その遊びのもつ楽しさ(特性)、遊び方、
やさしい段階と発展のさせかた
③いつするのか(季節・日時)
季節、年月日、曜日、時刻
④どういう場所で何を使うのか(物的環境)
場所、周囲、広さ、屋外、屋内、施設器具、用具
⑤指導者
指導経験、指導力、長所、短所
⑥ねらい(本時のねらい)
本時に経験させたい楽しみ
⑦子どもの望ましい活動(熱中する姿)
⑧指導の手だて
子どもの自発的な活動を引き出すため必要な指導者の働きかけ
環境作り(物的、人的)
集まり方説明(適切且つ効果的な言葉)
指導者の動き、観察助言・補助
⑨指導の評価
子どもが熱中したか(身体活動、表情、工夫、協力、発展)

指導性が強い場合、管理下での強制訓練となって押しつけになりやすく、また、ていねいな長い説明は「お待たせ保育」と言われるような活動の少ないものに陥りやすいので注意が必要です。

指導案の書き方
どの欄に何を書くのかを明確にします。
①本時のねらいについて
体育遊びの大きな目標を取り上げるのでなく「今日は何を、どんな方法で遊ぶのか」という具体的なねらいを書きます。具体的なねらいでなければ、実際の子どもの活動や指導者の手だては生まれてきません。その遊びの特性、つまり楽しさを子どもたちに存分に味わせることが保育の一番のねらいなのです。
本時のねらいは4つの観点で押さえます。
1.全体的な遊びのねらい(何を楽しませるのか)
2.技能的なねらい(その日の遊びの中心になる動き方)
3.社会的なねらい(仲間との助け合い・本時での一番大事なルール)
4.健康安全に関するねらい
②幼児の活動について
自主的で活発な望ましい子どもの姿を予想して書きます。
指導者の計画の順に図解を中心にして具体的に記述します。
1.全体(全員)はどう動くのか
2.グループ単位の遊びなら、一グループの動きを描く。
3.みんなが同じ動作をするなら、一人の動きを描く。
4.二人の遊びなら
③指導の手だて
子どもの望ましい活動を導き出し、十分に満足できるように指導者がどう働きかけるかを計画する欄です。
1.説明は大事なことだけを短くはっきりと考えて書く。
2.準備・助言等も予想して書く。
3.よく動く子、先走る子、遅れる子、離れる子等の動きを予想して手だてを考えておく。
④その他の注意点
1.できるだけ男女別に分けない。
2.座らせて説明しない。座らせて話を長く聞かせるのは一番下手な指導。短い説明で楽しい活動にすぐ入っていくのがよい。
3.笛での合図はさける。緊急に行動を停止させたいときや、行動や動作を強制的・画一的にさせるときに使うもので、楽しい遊びには必要でない。